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東京高等裁判所 平成12年(ネ)4291号 判決 2000年11月30日

平成一二年(ネ)第四二八九号事件控訴人(以下「控訴人甲野」という。)

甲野花子

平成一二年(ネ)第四二九一号事件控訴人(以下「控訴人乙山」という。)

乙山太郎

両事件被控訴人

丙川春子

右訴訟代理人弁護士

大家浩明

主文

一  控訴人らの本件控訴をいずれも棄却する。

二  控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実及び理由

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人甲野

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人は、控訴人甲野に対し、金二六万九九三七円及びこれに対する平成一〇年一〇月二三日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  控訴人乙山

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人は、控訴人乙山に対し、金一三一万六一三五円及び内金三三万三四一五円に対する平成一〇年一〇月二三日から、内金九八万二七二〇円に対する平成一一年二月二五日から、各支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

3  被控訴人は、二四時間体制で控訴人乙山を介護せよ。

4  被控訴人は、控訴人乙山に対し、本判決確定の日から一年間、一か月あたり金三〇万円の金員を支払え。

三  被控訴人

本件控訴をいずれも棄却する。

第二  事案の概要

一  本件は、控訴人らが被控訴人と三人での共同生活を始め、生活費の負担について取り決めたが、この取決めに基づいて被控訴人が負担すべき分を控訴人らがそれぞれ立て替えているとして、その立替分の支払を求め、その他に、控訴人甲野は、被控訴人が原因で勤務先を解雇されたことによる損害の賠償と、嫌がらせや名誉毀損による慰謝料の支払を求め、控訴人乙山は、被控訴人から左側頭部を殴打されて、右片麻痺、難聴、視野狭窄等の障害を生じたとして、被控訴人による介護と治療費、生活費の支払、及び右障害のために退職せざるを得なくなったことによる損害の賠償と被控訴人が所在不明になった際の捜索費用の支払を求めている事案である。各原判決は控訴人らの請求をいずれも棄却したため、控訴人らが、生活費の立替分の支払と、控訴人乙山が被控訴人による介護と、治療費及び生活費の支払を求める限度で不服を申し立てたものである。

二  当事者双方の主張は、各原判決の該当欄記載のとおりであるから、これを引用する。

第三  当裁判所の判断

一  当裁判所も、控訴人らの請求はいずれも理由のないものと判断する。その理由は、次に記載するほか、各原判決の理由記載と同一であるからこれを引用する。

1  本件において控訴人らが主張する生活費の負担に関する取決めは、証拠(平成一二年(ネ)第四二八九号事件の甲一の1、2、同年(ネ)第四二九一号事件の甲二の1、2、両事件の乙六、七)及び弁論の全趣旨によれば、単なる共同生活における費用の負担に関するものではない。控訴人乙山と控訴人甲野及び被控訴人との間の性的交渉を前提とした男一人と女二人による同棲生活を維持するための費用の負担についての合意である。

ところで、婚姻や内縁といった男女間の共同生活は、本来、相互の愛情と信頼に基づき、相手の人格を尊重することにより形成されるべきものであり、それ故にこそ、その共同生活が人間社会を形づくる基礎的単位として尊重されるのである。法は、このような社会的評価に基づいて、この男女間の共同生活を尊重し擁護している。そして、このような人間相互の愛情と信頼及び人格の尊重は、その本質からして、複数の異性との間に同時に成立しうることはありえないものである。本件における控訴人らと被控訴人の三者による同棲生活は、仮に各人が同意していたとしても、それは単に好奇心と性愛の赴くままに任せた場当たり的で、刹那的、享楽的な生活であり、現に三人の共同生活では、相互の人間的葛藤から激しい対立関係が生じ、お互いに傷つけ合うに至っている。そして、このような共同生活によって、親族その他の第三者にも相当の被害を生じている。このように、控訴人らと被控訴人の三名の男女による共同生活は、健全な性道徳に悖り、善良の風俗に反する反社会的な行為といわざるを得ず、社会的にも法的にも到底容認されるものではない。そして、それが本来の愛情と信頼に基づくものでないからこそ、生活費の分担を含めた前記のような取決めが必要となり、その取決めによって各人の自由を制限し、その収入を管理してまでも、異常な共同生活の維持継続を図り、かつ共同生活からの離脱を阻もうとすることとなるのである。このような取決めや合意を有効として、それに基づく請求を訴訟手続によって認めることは、社会的、法的に容認され得ない善良な風俗に反する行為を、裁判所が法の名の下に擁護し助長することにほかならず、許されるものではない。したがって、控訴人らが本訴各請求の根拠とする生活費負担の取決めないし合意は、仮にその事実があったとしても、善良な風俗に反するものとして無効というべきである。この理は、被控訴人がすでにそのような共同生活から離脱していたとしても同様である。よって、その余の点について検討するまでもなく、控訴人らの立替金の請求はいずれも認められない。

2  被控訴人による控訴人乙山に対する暴行の事実については、当裁判所も右事実はこれを認めるに十分でなく、また仮に暴行の事実が存したとしても、控訴人乙山の主張する障害がそれによって生じたものとは認められないと判断するが、その理由は平成一二年(ネ)第四二九一号事件の原判決の理由欄二の2(一一頁以下)の記載と同様である。

二  以上によれば、控訴人らの請求はいずれも理由がない。これを棄却した各原判決は結論において相当であって、本件控訴はいずれも理由がない。

よって主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官・淺生重機、裁判官・西島幸夫、裁判官・原敏雄)

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